やさしい商業登記教室 第49回 定時株主総会の省略の可否
A 【解説】 1. 問題の所在 これに対して、監査の範囲を会計に限定した監査役については、会社法389条3項(問題文参照)にそのような限定がなく、常に、その調査の結果を株主総会に報告しなければならないと規定されています。 また、会社法320条には「取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす」とありますが、監査役の報告について省略できる旨の規定がありません。 したがって、監査の範囲が会計に限定されている監査役を置く株式会社の場合は、計算書類の承認を議案とする定時株主総会の開催を省略できないのではないかが問題になります。 2. 否定説と肯定説 会社法の立案過程においても、商法時代には、「営業報告書等の定時総会への報告を省略することができるかどうかという問題と関連して、定時総会の開催自体を省略することができるかどうかという問題があったが、会社法では、前述のとおり、報告事項についても手当てを講じているため(注:会社法320条のこと)、定時株主総会の開催についても総株主の同意があれば省略が可能となることが明らかになっている」(相澤哲=細川充「株主総会等」商事法務1743号29頁)と説明されており、監査役の権限によって差を設けた説明になっていません。 3. 肯定説に賛成する 否定説では、計算書類の議案を含む定時株主総会どころか、会計に関する内容を含む増減資議案や組織再編議案ですら、株主総会の開催が必須とされ(会社法施行規則108条参照)、その影響は極めて甚大です。 法律解釈上も、次の点に疑問があります。 第1に、株主総会の省略制度(会社法319条・320条)は、書面決議と称されることがあっても、株主全員の同意の制度であって、株主総会の規律に従った制度ではありません。組織変更や取締役の責任免除と同様に(会社法776条、424条など)、総株主の同意制度の1つですから、議決権の有無に無関係であり(会社法298条2項カッコ書参照)、株主提案でもよく、個々ばらばらの株主の同意でもかまいません。したがって、株主総会の開催を前提とした会社法389条3項は、株主全員の同意の障害になりません。 同様に、辞任した監査役は、「辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる」(会345条4項、2項)の「最初に招集される株主総会」にも該当しません。 第2に、取締役会決議の省略においては、「監査役が当該提案について異議を述べたときを除く」(会社法370条)とありますが、株主総会決議の省略には、そのような制限がなく、監査役の報告がなくとも、有効に株主総会の省略ができることが明らかです。もし、株主が監査役の報告内容を知りたければ、必要により、議案の提案・報告を受けてから、監査報告を含む計算書類等を事前閲覧し(会社442条1項1号)、株主総会の省略の可否を判断すれば足ります。 第3に、「株主総会に報告しなければならない」という規定は、株主総会の開催義務に直結しません。会社法795条3項には、「承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の資産に吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式が含まれる場合には、取締役は、第1項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない」とあり、株主総会での説明義務を課していますが、この場合にも、簡易・略式組織再編の要件を満たせば、株主総会の開催が不要とされています。 第4に、会社法384条の「法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは」という規定は、業務監査を前提とした表現であり、会計に関する監査は「株式会社の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見」(会社計算規則122条1項2号)が中心であり、常に必要なものです。会社法384条と389条3項の規定振りの比較から、株主総会の省略の要否の結論を導けるとは思えません。 4. 結論 (担当 商業法人登記総合研究5人委員会委員 ESG法務研究会代表 司法書士 金子登志雄) ※ 本問は、「登記情報578号」47頁以下にも掲載されています。 |