やさしい商業登記教室 第42回 補欠の意味

Q 補欠の意味
 当社には監査役としてAとBの2名がおり、ABの任期は平成22年の定時株主総会までですが、Aが辞任したので、後任の「補欠」としてCを選任しました。当社の定款には、監査役の員数につき2名以内、任期については、「①監査役の任期は選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。②任期満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期は、退任した監査役の任期の残存期間と同一とする」と定めてあります。この定款の定めに従い、Cの任期はAの任期を引き継ぎ、平成22年の定時株主総会まででよろしいでしょうか。

 当委員会は、全員一致により、Cは補欠に該当し、任期は平成22年の定時株主総会までであると解釈します。すなわち、「会社法第336条第3項は、第329条第2項とは異なり、役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた監査役の員数を欠くことにならない場合にも適用される」と結論づけました。

【解説】
(問題の所在)

 会社法は、「補欠」について何ら定義せず、その第329条第2項で、「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる」と補欠役員の予選について定め、第336条第3項で、「定款によって、任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任した監査役の任期の満了する時までとすることを妨げない」と補欠監査役の任期短縮について定めるのみです。

 前者は会社法で新設された規定ですが、後者は旧商法第273条第3項を受けたものであり、内容も旧商法と同一です。

 さて、設例の会社では監査役は1名で足りるため、設例のCが第329条第2項の「法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合の補欠」に該当しないことは明らかですが、第336条第3項の「任期が短縮される補欠」に該当するかについては、議論のあるところです。

 とくに、『商業登記ハンドブック』(商事法務刊・松井信憲著)では、設例のCは、補欠監査役に該当しないように読めてしまいます。その431頁に、「狭義の『補欠』とは、①法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合において、②その後任として、③任期を前任者の残存任期として選任される者」とされ、この狭義の補欠には、「前任者の退任後に補欠者を選任する場合も、前任者の任期中に補欠者を予選する場合も、いずれも妥当する」と説明されているため、設例のCは、これに該当しないからです(前任者の退任後に補欠者を選任する場合には該当しても、その前提となる「法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合」に該当しない)。

 また、第329条第2項につき、予選かどうかの選任時期を問わず補欠の「選任」の条件を定めたものと解釈すると、第336条第3項の「任期が短縮される補欠」についても、同様の選任の条件があるとみるべきでしょう。

 一方で、任期短縮を規定する会社法第336条第2項の前身である旧商法第273条第3項の規律のもとでは、設例のCは補欠に該当し、任期の短縮が肯定されていました(商事法務1270号36頁実務相談室・法務省民事局第4課吉越満男「複数の監査役を置く小会社において補欠として選任された監査役の任期」)。

 同一内容の規律なのに、会社法の施行によって、解釈を改める必要が生じたのでしょうか。この点につき、かねてより当委員会の神崎(敬称略)から、第329条第2項が新設された会社法下の司法書士業務においては、確定した解釈がない限り、安全かつ保守的に行動せざるをえないとしても、実務界の要請もあるため、補欠の任期を従来どおりに解釈できないものかとの提言がなされておりました。そこで、当委員会で、協議問題として取り上げ、詳細に検討いたしました。

【検討結果】
(1) 補欠の概念について
 会社法が、「補欠」について何ら定義していないということは、一般の社会通念で補欠を解釈すればよく、一般用語で「補欠」とは現状員数の欠員を補充することであり、補欠に対応する「増員」が現状の員数を増加する場合です(増員につき、商事法務刊『実務相談株式会社法(3)』895頁参照)。

 もし、補欠が「法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合」に限定されるなら、増員についても「法律又は定款で定めた役員の員数を増加する場合」ということになりかねず、これではあまりに一般用語とかけ離れすぎます。

(2) 会社法第329条2項の文理
 第329条第2項には、「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて」とあるとおり、「予選することができることとその手続等を明確化」しただけで(商事法務刊・相澤哲編著『一問一答 新・会社法』311頁)、補欠を定義し、その範囲を限定するものとは思えません。

(3) 立法の経緯
 大会社(主に上場会社)の監査役の員数は、旧商法時代から最低3名(うち半数以上は社外監査役であること)が必要ですが(会社法335条3項参照)、3名中の1名でも任期中に退任すると、わざわざ、このためにのみ臨時株主総会を開催して後任を選任しなければなりません。株主数の多い上場会社にあっては、たいへんな手間と費用負担です。安全をみて4名選任しておくことは、その報酬負担という問題が生じますし、4名のうち社外監査役が2名であれば、社外監査役1名の退任に対応できず、やはり後任の選任手続が必要となります。

 このような不都合に対処するため、実業界の要請に基づき、定時株主総会において監査役の補欠者をあらかじめ選任しておくことが平成15年4月9日付民商第1079号商事課長通知によって認められました。

 この民商第1079号商事課長通知が会社法の条文として第329条2項に結実したものといえます(現代化要綱補足説明参照)。したがって、同条項は、補欠の範囲そのものを限定する趣旨はなく、あらかじめ補欠者を選任できること及びその条件について定めたものにすぎません。

(4) 立法担当者の説明
 『新・会社法の解説』(商事法務刊・相澤哲ほか編著)の306頁以下に、「336条3項の『補欠』は、旧商法273条3項を受けたものであり、329条2項によって予選された補欠取締役だけでなく監査役が任期途中に辞任した場合等に株主総会で監査役として選任した者の任期を短縮する場合についても適用がある」と明記されています。

 ただし、この部分だけでは、後任として選任された監査役が現状の員数を欠いた場合の補欠を含むのか断定できませんが、編著者のお一人である葉玉匡美氏が自身のブログ(「会社法であそぼ」)で「法律・定款に定める員数を欠くこととはならない場合であっても、336条3項は適用されると思います」と明言していることから(平成19年10月27日Q4)、立法担当者の見解は、「任期が短縮される監査役は、法律又は定款に定める員数を欠く場合の補欠に限定されるものではない」というものだと思われます。

(5) 実務の取扱い
 上場会社の実務を調査しましたところ、会社法施行後において、「法律又は定款に定める員数を欠くこととはならない場合」の補欠選任事例がいくつかみつかりました。中には、著名大企業も含まれており、実業界では、現状の員数を欠いた場合を補欠として捉えていることが明らかでした。

 なお、実務では、株主総会の議案につき、会社法第329条第2項の「予選」では、「補欠監査役*名選任の件」とし、第336条第3項の本来の「選任」では、「監査役*名選任の件」とし、議案の中で補欠として任期が短縮されることを説明しています。議案の表現を区別しているのは、「予選」と「選任」の差が主ですが、予選の目的(法律又は定款に定める員数を欠く場合の予備)と正規に選任された監査役の任期とは別の問題だという意味もあるでしょう。

(6) 『商業登記ハンドブック』の解釈
 同書の該当部分には、確かに「狭義の補欠は、法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合」とありますが、同書438頁には、「会社法では、広義の補欠監査役の予選は、 予選の効力が次期定時株主総会までである限り, 定款の定めなくして可能となったものであり(法329条2項)」とあります。このことから、同書は、「法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合」のうち、任期を短縮されるものを「狭義の補欠」、任期が短縮されないものを「広義の補欠」と捉えているものと推測されます。

 言い換えれば、同書の該当部分は、会社法第329条2項でいう「法律又は定款で定めた役員の員数を欠く場合の補欠」について説明したものであり、第336条第3項の「任期が短縮される補欠」監査役一般の任期についての説明ではないというべきでしょう。

(7) 結 論
 以上のとおり、当委員会は、会社法第329条2項と第336条第3項とは、補欠の概念も範囲も異なるものではなく、第329条2項の予選の場合に限り、予選する目的が必要だと考えます。したがって、法律又は定款に定める員数を十分に満たしている場合にも、「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて」補欠を予選することができますが、監査役として就任できるのは、法律又は定款に定める員数を欠いた場合に限られます(前掲『新・会社法の解説』305頁)。

 また、予選でなければ、現状の員数を欠いた場合に、後任の補欠監査役を選任でき、その補欠者の任期を定款の定めにより短縮できると考えます。
担当
一般社団法人商業登記倶楽部
商業法人登記総合研究5人委員会
委員 司法書士 金子登志雄(ESG法務研究会代表)

(注)本問については、神崎から非公式に法務省民事局商事課担当官に照会したところ、本問の結論の取扱いでよい旨の回答を得ましたので、No.36、No.37およびNo.41を、本問の解説のとおり変更します。