やさしい商業登記教室 第47回 合併と抱き合わせ株式の処理

Q.合併と抱き合わせ株式の処理
 吸収合併で、よく「抱き合わせ株式」という用語が登場しますが、これは何ですか。


 合併存続会社が有する合併消滅会社の株式のことで、合併対価を割当てできない株式のことです。企業会計基準(「抱合せ株式」と表記)や法人税法24条2項(「抱合株式」と表記)に登場します。

【解説】
 会社法749条1項3号カッコ書において、合併対価を割当てすることができない株式として、この抱き合わせ株式と消滅会社自身の自己株式を取り上げていますが、会社計算規則2条3項39号では、これらを「先行取得分株式等」と定義しています。

 合併存続会社甲が合併消滅会社乙の株式の一部を所有していることは(たとえば、100株中の10株)、乙の財産の一部を先行取得していることを意味します。

 その先行取得した株式に合併対価を割り当てると自己が自己に割り当てることになりますから(合併対価が甲株式の場合は自己株式の原始取得になる)、何らの財産の増加もなく、会社法で割当てを禁じているわけです。

 抱き合わせ株式は、合併の会計処理で控除項目になります。以下、例で説明します。

 次の甲乙は共通の親会社丙を頂く兄弟会社ですが、乙の発行済株式100株中10株(1割)を甲が保有しているとします。

cky047-1.gif ( バイト)

 この場合に、本来であれば、乙の純資産額200万円中の1割に相当する20万円が甲のものであり、残りの180万円が丙のものですから、甲が新たに取得する財産は180万円というべきです。

 しかし、この計算方法では、甲の投資額10万円と現在の投資結果20万円との差額を別途計算し、その会計処理についても考えねばならず容易ではありません。

 そこで、甲はこの合併で乙の資産と負債の合計である200万円全部を引き継ぐが、合併と同時に乙は解散し、甲の有する乙株式(抱き合わせ株式10万円)も消滅するため、差引きで、190万円が甲の財産に追加されると計算します。

 わかりやすくいえば、正式な購入額は200万円だが、10万円だけ先払いしているので、今回の支払額は残額の190万円だと考えるわけです。

 甲が190万円分の株式を合併対価として発行すれば、その190万円(株主資本等変動額)の範囲で、甲は資本金、資本準備金、その他資本剰余金を増加することができます(計算規則35条2項本文、なお、これは株主資本等変動額の計算だけの問題であり、合併比率や割当て株数の問題ではありませんから、丙を特別扱いしたことになりません)。

 以上の方法が簡便で原則的な処理ですが、甲が乙の親会社の場合に、このような計算をすると、不合理な結果になります。

 例えば、乙の100株中、甲が90株(丙が10株)を所有しているのに、新規に取得した財産が190万円だとすると、丙の所有する10株が190万円の価値で、甲の所有する90株が10万円の価値だということになるからです。

 したがって、甲が乙の親会社の場合には、乙の財産を持分比率に応じて乙の株主ごとに個別に計算をします。

 すなわち、甲は10万円を投資し、180万円(乙の純資産200万円の9割)を回収したと考え、差額の170万円を特別利益に計上します(抱き合わせ株式消滅益という)。10万円の株式投資で、170万円を儲けたと考えるわけです。

 一方、丙の10株分に相当する20万円(乙の純資産200万円の1割)は、新規に受け入れた財産ですから、この20万円が甲の株主資本等変動額になり(合併対価として甲株式が選択された場合)、20万円の範囲で、資本金、資本準備金、その他資本剰余金に配分できます。

 募集株式の発行の場合と相違して、その他資本剰余金にも計上できるのは、合併は組織再編であり、債権者保護手続もなされるからだといえましょう(「組織再編=募集株式の発行+減資」と考えてみてください)。

 甲が乙の完全親会社の場合には、抱き合わせ株式消滅損益のみの問題となり、甲は資本金等を増加できません(Q4参照)。

(担当 商業法人登記総合研究5人委員会委員 ESG法務研究会代表・司法書士 金子登志雄)

※ 本問は、雑誌「登記情報」574号44頁以下にも掲載されています。