やさしい商業登記教室 第63回 合同会社の定款作成上の留意点(3)


合同会社の定款作成上の留意点(3)

3.合同会社の定款の作成と法務のプロの関与の必要性
 法務省のホームページに登録されている合同会社の設立登記申請書の様式を拝見しますと、定款は全文8条、合同会社は、プロに依頼しなくても、誰でも自分で簡単に設立できる会社という印象を与えますが、この定款の記載例には、法務省の「一例です。会社の実情に合わせて作成してください。」という注書があります。「会社の実情に合わせた定款の作成」、これは正に法務のプロでなければ困難な仕事なのです。実は、「合同会社は、利害関係者の利益を保護するための法規制を積極的に講じないこととし、いわば、プロが使っていく制度として創設した」という法務省の立案担当者の言もこのことを踏まえたものではないでしょうか。

 ところで、合同会社には約30に及ぶ定款の相対的記載事項があり、合同会社が制度創設8年の若い会社という関係もあって、相対的記載事項および任意的記載事項の活用法は、理論上も実務上も、まだ確立されていないように思います。それ故に、市販の図書やネットで公開されている合同会社の定款には、問題点を避けた(問題点に気が付かない?)極めてシンプルなものが多いようです。この点については、取りあえず会社を設立し、問題があれば、その都度定款を変更すればよいとする考え方もありますが、定款の変更は、社員全員の同意が原則です。問題が生じてからでは遅すぎます(たとえば、合同会社においては、定款に「社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する」旨の定めがない限り、持分の承継はできません。平成24年10月1日に合併により消滅した住友金属工業株式会社の子会社にも合同会社があったとのことです。)。合同会社の設立は、「定款の作成に始まり定款の作成で終わる。」と言っても決して過言ではありません。

 定款は、会社の組織、活動に関する根本規則と解するのが通説ですが、そうであるとすれば、当該会社の組織、活動に関する基本的な事項は、定款を見れば分かる必要があります。そこで、たとえ会社法に規定されている事項であっても、会社の活動に関する基本的な事項は、法律の素人である社員(合同会社における「社員」は、従業員のことではなく、「出資者」のことです。)に理解してもらうためにも任意的記載事項として記載すべきであるというのが公証人OBである当職の考え方です。

 合同会社の定款作成のポイントは、社員の構成、年齢、出資の多寡、業務の形態および事業目的等に適合した最適の定款の作成であり、相対的記載事項および任意的記載事項をいかに活用するかですが、そのためには、専門家の法務面でのサポートが、必要不可欠と考えます。そこで、そのサポート役が問題になりますが、設立登記申請を前提に考えれば、そのサポート役は、司法書士であり、設立後のサポートは、司法書士法施行規則31条1号に規定する司法書士の業務(「事業の経営の補助」)と考えます。