商業登記漫歩 平成21年6月29日号(35号)

◇ 会員のS先生からお電話をいただきました。医療法人の理事長の変更登記申請書に添付する「医師又は歯科医師であることを証する書面」には、医師免許証の写しが該当するが、「この写し」に奥書証明をして理事長の登記所届出印を押印する必要があるかというものです。K先生のお話では、2年前申請したときは、Y地方法務局では奥書証明は不要であったが、今回は必要として補正の指示を受けた。前回の取扱いを話すと、「前は前、今は今」といわれ、理論的な説明は何もなかったが、現に東京法務局では受理されているとのことです。残念ながら、このような経験がおありの先生は数多いようです。

◇ 過去受理されていたものが、担当登記官の交替によって突然受理されなくなる。あってはならないことが現実に行われています。このようなご指摘を受けるたびに、登記官OBとしては身の細る思いがします。当職の在職中は、「登記行政」という言葉がありましたが、継続性のない行政は、行政ではありません。もし、それを行政というとすれば、「猫目行政」とか、「行き当たりばったり行政」というのではないでしょうか。当職は、過去において受理をしていた取扱いを不受理に変更するのは、①それが職権抹消の対象となる登記か、②不受理にすることに合理的な理由があり、かつ相当の期間をおいて周知した場合に限られると考えます。「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」という論語の言葉がありますが、本件がこれに該当しないことを登記官諸氏は肝に銘じていただきたいと考えます。

◇ ところで、「医師免許証の写し」には奥書証明と登記所届出印の押印を要するのでしょうか。奥書証明と押印があれば何の問題もないことは分かりますが、これらがない場合に却下の対象になるのでしょうか。登記官がこれを却下するには相当の勇気がいります。何故なら、医療法人の理事長の変更登記申請書に医師免許証の添付を要するという明文の規定はどこにもなく、「登記事項の変更を証する書面」(組合等登記令17条1項本文)の一部として添付を要するに過ぎないからです。医師免許の取消処分を受けた場合は、これを厚生労働大臣に返納することとされており(医師法施行令7条2項)、失効した医師免許証が当事者の手元にあることもありません。要は、「変更を証する書面」の全体から理事長が医師であることを疑うに足る合理的な理由がなければよいのではないでしょうか。奥書証明をしても、それは所詮理事長の自己証明に過ぎません。そうであるとすれば、その理事長自身が、自己が理事長として、医師であることを前提に登記所届出印を押印して登記申請をしているわけですから、医師免許証の写しに奥書証明がないことの理由のみで却下することは困難ではないでしょうか。

◇ 28日(日)13時から17時まで、東京都港区高輪のホテルパシフィック東京において、(社)成年後見センター・リーガルサポート(以下「LS」という。)の第11回定時総会が開催され、当職も外部理事として出席しました。LSは、平成11年12月1日設立(ということは、今年が10周年記念ということで、日司連と共催で盛大な記念式典が予定されています。)、当時の社員は3,033名でしたが、今年度中には、当初目標の5,000名に達することは確実な状況となりました。文字通り、わが国の専門職後見人の団体としては最大のものであり、不動の地位を確立しつつあります。わが国の長寿化社会の進展に対応して、そのニーズも更に高まり、成年後見業務も、登記、裁判業務と並んで司法書士業務の3本の柱に育ち、今後ますます発展するものと思います。
  ところで、総会には6月19日就任された日司連の細田新会長も出席され、来賓として祝辞を賜りました。思えば、LS設立の直前頃、どこの司法書士会に出講しても、大貫正男先生にお目にかかりました。創業理事長としてLSの設立に奔走されていたものと思います。成年後見業務の重要性に着目された大貫先生の炯眼と先見の明に心から敬意を表します。

◇ ところで、本年はLSの役員改選の年。芳賀裕先生(福島)が理事長に重任、望月真由美先生が副理事長に重任、松井秀樹先生が副理事長に新任、専務理事に矢頭範之先生が就任されました。LSと共に歩まれた副理事長の前田先生がご退任されました。前田先生、長きにわたりご苦労様でした。
  なお、当職も理事に重任、3期目に入りました。また、LSの公益認定の申請は、来年度総会で定款を変更してからとなりました。(満)