やさしい商業登記教室 第5回 ほんとうに資本金1円で会社ができるのか

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第5回 ほんとうに資本金1円で会社ができるのか

A 今日のテーマは、「本当に資本金1円で会社ができるのか」です。ご承知のように、本年2月1日から、いわゆる「中小企業挑戦支援法」によって株式会社の最低資本金1000万円、有限会社の最低資本金300万円について、会社設立後5年以内に最低資本をクリアするという条件付きで特例が設けられました。

 この特例の適用を受けるためには、①新事業創出促進法2条2項3号に掲げる創業者に該当することについて、経済産業大臣の確認を受けた者(個人)が、②確認の日から2か月以内に設立登記の申請をする必要があります(新事業創出促進法10条)。この会社を、株式会社の場合、「確認株式会社」、有限会社の場合「確認有限会社」といいます。

 なお、創業者とは、①事業を営んでいない個人であって、②2か月以内に創業(事業を営んでいない個人が新たに会社を設立し、その会社が事業を開始すること)を行う具体的計画を有する者を言います。

C ほんとうに、1円でも会社を設立することができるのですか。

A 法律上は、資本金は1円以上であれば差し支えありませんが、定款認証料が5万円と収入印紙4万円、設立登記のための登録免許税が株式会社15万円、有限会社6万円必要となりますので、1円で会社が設立できるのかといえば、それはノーです。

B 私の事務所にも、ほんとうに1円で会社を設立できるのですかという問い合せがあるのですが、最低限、定款認証料と登録免許税は必要ですよと答えています。それで、A先生に一つ質問があるのですが、定款認証料と登録免許税は、定款に設立費用として記載しなくても、当然設立費用になりますよね。

A そうですね。定款認証料については、商法168条1項8号に規定されていますし、印紙税や登録免許税については商法168条1項8号に除外例として規定されていませんが、その性質は設立費用であり、定款認証の手数料と同様、会社の繰延資産として貸借対照表に計上することが認められています(商法施行規則35条)。したがって、定款認証料と印紙税および登録免許税は、設立費用として定款に記載していなくても、設立費用として会社の負担にすることができます。

C 創業者は、事業を営んでいない個人に限られるということですと、個人事業の法人成りには活用できないということですね。

A そうです。ただし、現在営んでいる事業を廃業して、新しい事業を起こすということであれば差し支えありません。また、創業者に該当するものが法人と共同で(共に発起人となって)会社を設立する場合でも、創業者に該当する者が、責任をもって主体的に事業を行う場合には差し支えないとされています。

C 確認会社を設立する手順は、どのようになるのですか。

A 確認株式会社または確認有限会社を設立する手順は、次のとおりです。

cky005-1.gif ( バイト)

C 商号に、「確認株式会社」あるいは「確認有限会社」であることを示す文字がつけられるのですか。また、払込みは銀行にするのですか。

A 商号に確認会社であることを示す文字をつけることはありません。また、払込みは銀行にする必要がありますが、発起人の預金口座に払込むこともできます。

C それでは、確認会社と取引をする相手方には、確認会社であることはわからないのですか。

A 確認会社の場合、次のような解散の事由が定款の絶対的記載事項とされ、かつ登記事項とされていますので、登記簿を見ればわかります。
(株式会社の場合)
第○条 会社は、商法第404条各号に掲げる事由のほか、新事業創出促進法第10条の18第1項の規定により、次に掲げる事由により解散する。
 1 資本の額を1000万円以上とする変更の登記又は有限会社、合名会社若しくは合資会社に組織を変更した場合にすべき登記の申請をしないで設立の日から5年を経過したこと
 2 新事業創出促進法第10条の2の規定により同法第10条第1項の確認を取り消されたこと

B 5年以内に1000万円まで増資をしなければならないわけですから、資本金1円からのスタートでは大変ですね。

A そこは、アイデアと実行力の勝負ですが、何事もチャレンジということでしょう。

B この制度の利用状況は、どうなのでしょうか。

A 新聞報道(4月3日付日本経済新聞)によれば、3月27日現在の1都3県の確認申請件数は、東京都338件、神奈川県94件、埼玉県61件、千葉県45件という状況です。

C その中に、資本金1円の会社もあるのでしょうか。

A 資本金1円で確認を受けた会社が1社あるとのことです。それでは、次回は、改正商法シリーズの第1回目で、「小会社、大会社、みなし大会社とは、どのような会社をいうのか」です。