やさしい商業登記教室 第33回 会社法の施行に伴う民亊局長通達と定款作成上の留意事項(1)


会社法の施行に伴う民亊局長通達と定款作成上の留意事項(1)
有限責任中間法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者
神 崎 満 治 郎 
1.はじめに
 去る3月31日、「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱い」に関する平成18年3月31日付民商第782号法務省民事局長通達(この通達は法務省のホームページに掲載されているので、誰でも入手することができる。)が発出された。A4判146ページという大部のもので、商事課伝統の解説調のものである。

 通達は、「第1部 本通達の趣旨」、「第2部 株式会社」、「第3部 有限会社」、「第4部 持分会社」、「第5部 組織再編」、「第6部 外国会社」、「第7部 商業登記に関するその他の改正」、「第8部 経過措置」の8部で構成されており、まず、実体上の手続きについて解説し、次いで、登記申請手続きについて解説するというように、実務に即した構成となっている。

 そこで、本通達に述べられた定款の記載事項等を踏まえ、非公開・非大会社の定款の記載事項のうち特に留意を要する事項について簡単に解説してみることにした。

2.商号
 他人が登記した商号と同一又は類似の商号は、同一市町村内においては、同一の営業のためには登記することができないとする類似商号規制は廃止され、改正後の商業登記法27条は、「商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあっては本店)の所在場所が当該他人が登記したものと同一であるときは、することができない。」と規定した。したがって、会社の設立登記の申請は、商号・本店の所在場所(所在地番)が同一でない限り、たとえ同一市町村内・同一商号・同一目的であっても、他に却下事由がない限り受理される。ただし、会社法8条及び不正競争防止法2条3条4条(更に5条では、「損害の額の推定」も規定している。)は、次のように規定しているので、留意する必要がある。

会社法8条 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
  ② 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は
侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれ
がある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」

不正競争防止法2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
  1 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、・・・(中略)・・・営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、…(中略)…他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
 2 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用
  し、…(中略)…電気通信回線を通じて提供する行為
  以下略

不正競争防止法3条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対しそ
の侵害の停止又は予防を請求することができる。
 2 略

不正競争防止法4条 故意又は過失により不正競争を行なって他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第8条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。」

3.目 的
 定款に記載する会社の目的については、登記実務では、会社の存在目的としての「目的」
ではなく、その目的を実現するための具体的な手段としての「会社の行うべき事業」であ
ると解されている(味村治「新訂詳解商業登記」上巻470頁)。

 ところで、その事業の内容は、①適法であり、②営利性を有し、これを定款に記載する
場合には、会社法施行前においては、③明確かつ④具体的に記載しなければならないとされていたが、会社法施行後は、具体性の要件は撤廃された(平成18年3月31日民商782号民亊局長通達)。したがって、法務省の見解では、①「事業」、②「営業」、③「商業」、④「営利的事業」、⑤「商取引」、⑥「商工業」、⑦「製造業」、⑧「卸売り・小売業」、⑨「サービス業」という目的は、いづれも受理されるが、業 「製造業以外」という目的は受理されないとしている。

 なお、この場合、次の点に留意する必要がある。

(1) 周知のように、目的の具体性については、公証人や司法書士等と登記官の見解が対立することがままあり、この要件の撤廃は実務上の朗報であるが、明確性(目的に用いられている語句の意味及び目的全体の意味が明らかであること)と具体性は、ある意味で表裏の関係にあるので、明確性の有無めぐって登記官と公証人等の見解が対立する可能性は残る。

(2) 前記①?⑨の目的で会社が設立できたとしても、現実に営む事業が許認可事業(風俗・古物業、建設業、運輸業、不動産業等)の場合、これらの抽象的な事業目的で許認可官庁の許認可がえられるかどうか、また金融機関が銀行取引等に応じてくれるか否か等これらの目的を選定したことにともなう不利益は、すべてこのような事業目的を選択した発起人の自己責任ということになる。商法の原則規制から会社法の原則自由・自己責任がここにも現れていることに留意する必要がある。

4.公告方法
 商法のもとでは、「会社が公告をなす方法」が定款の絶対的記載事項とされていたが、会社法のもとでは、公告方法が「日刊新聞」又は「電子公告」の場合に限って定款の記載事項(相対的記載事項)とされた。「官報」の場合は定款に記載する必要はない(会社法939条4項)が、公告方法は登記事項とされている(会社法911条3項28号?30号)ので、実務上は、たとえ官報であっても、確認的に記載する場合が多いと思われる。