やさしい商業登記教室 第34回 会社法の施行に伴う民亊局長通達と定款作成上の留意事項(2)


会社法の施行に伴う民亊局長通達と定款作成上の留意事項(2)
有限責任中間法人商業登記倶楽部代表理事
桐蔭横浜大学法学部客員教授 神 崎 満 治 郎
5.発行可能株式総数
 「会社が発行する株式の総数」(旧商法166条1項3号)の名称が「発行可能株式総数」に変更された。発行可能株式総数は、公証人の認証を受ける時点の定款には、これを記載してもしなくても良いが、株式会社の設立の時までにはこれを定めなければならない。これは、設立過程における株式の引受状況等を踏まえて発行可能株式総数を決定することができるようにしたものである。そこで、発行可能株式総数の定めが定款にないときは,設立過程における株式の引受状況等を踏まえて,会社の成立の時までに,発起設立にあっては発起人全員の同意により,募集設立にあっては創立総会の決議により,定款を変更してその定めを設けなければならない(会社法37条第1項,2項,98条)。ここで、留意すべきことは、公証人の認証を受けた定款に発行可能株式総数の定めがないときは、定款を変更してその定めを設けなければならない(会社法37条1項)ということと発行可能株式総数を定款に定めている場合でも、会社の成立の時までに,発起設立にあっては発起人全員の同意により、募集設立にあっては創立総会の決議により、発行可能株式総数に関する定款の定めを変更することができるということである(会社法37条2項、96条)。

 なお、公開会社における発行可能株式総数は、旧商法と同様に,設立時発行株式の数の4倍以下でなければならない(会社法37条3項)。

6.株式の内容と種類株式
 会社法は、各株式の内容は同じであることを原則としているが、(1)の場合には株式の内容について特別の定めを設け、(2)の場合については異なる内容の定めをすることを認めている(会社法107条、108条)。なお、(1)、(2)の場合とも、登記事項とされている(会社法911条3項7号)。

 (1) 発行するすべての株式の内容として、①譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(譲渡制限株式)、②当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(取得請求権付株式)、③当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを強制的に取得することができること(取得条項付株式)、の三つの場合について、それぞれ特別の定めを設けること(会社法107条)。

 (2) ①剰余金の配当(剰余金配当種類株式)、②残余財産の分配(残余財産分配種類株式)、③株主総会において議決権を行使することができる事項(議決権制限種類株式)、④譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(譲渡制限種類株式)、⑤当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(取得請求権付種類株式)、⑥当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを強制的に取得することができること(取得条項付種類株式)、⑦当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその株式の全部を強制的に取得すること(全部取得条項付種類株式)、⑧株主総会(取締役会設置会社にあっては、株主総会又は取締役会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主総会の決議があることを必要とするもの(拒否権付種類株式)、⑨当該種類の株式の種類株主総会において、取締役又は監査役を選任すること。ただし、委員会設置会社でない非公開会社に限る(取締役等選解任種類株式)(会社法108条)。

 以上は種類株式であるが、種類株式の基本型が旧商法の6種類から9種類に増加した。種類株式の制度は、会社の資金調達、支配関係の多様化、敵対的買収に対する防衛策、相続対策等として利用することができる。

 なお、非公開会社は、剰余金配当・残余財産分配・議決権について、株主ごとに異なる取扱いを行なう旨を定款に定めることができる(属人的種類株式、会社法109条2項)が、これを種類株式として登記をすることはできない。

7.譲渡制限株式と株式の内容及び種類株式
 会社法では、前述のように株式譲渡制限の定めが株式の内容についての特別の定めとされ、その発行する全部又は一部の株式の内容として「譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要する」というように定めることができることとされた(会社法107条1項1号、108条1項4号、2条17号)。そして、一部の株式の内容として「譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要する」旨を定めた場合に種類株式ということになる。

 ところで、これを定款に定める場合の規定の仕方が問題になる。現在は、商法204条1項の「株式ハ之ヲ他人ニ譲渡スルコトヲ得但シ定款ヲ以テ取締役会ノ承認ヲ要スル旨ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ」という規定を受けて、通常、「第○条 当会社の株式の譲渡には、取締役会の承認を要する。」というように規定している(旧商法204条1項ただし書の規定に基づく定款のこの定めは、整備法76条3項により「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定め」があるものとみなすとされている。ただし、その登記は、登記官が職権でせず、また申請義務も課されていない。)が、会社法107条1項1号及び108条1項4号は、前述のように、「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する。」というように規定している。

 そこで、会社法107条1項1号及び108条1項4号にいう「当該株式会社の承認」が具体的に何の承認かが問題になるが、①取締役会非設設置会社の場合には、「株主総会の承認」(会社法139条1項)、②取締役会設置会社の場合には、「取締役会の承認」(会社法139条1項)、③「その他定款に定める者の承認」(会社法139条1項ただし書)ということになる。

 なお、一定の場合においては、会社法136条又は137条1項の承認をしたものとみなすことができるので、この場合には、その旨及び当該一定の場合を定款に定め(例えば、「当会社の株主が譲渡によって当会社の株式を取得する場合には、当会社が承認したものとみなす。」)なければならない(会社法107条2項1号ロ、108条2項4号)。

8.株券発行会社である旨の定め
 旧商法のもとでは株券発行が原則とされ(旧商法226条1項本文)、定款に株券不発行の定めを設けた場合等に限って株券の発行を要しないとされていた(旧商法226条1項ただし書、226条ノ2。なお、この場合には、株券不発行である旨の登記も必要)。ところが、会社法のもとでは株券不発行が原則とされ、定款に株券を発行する旨定めた場合に限って株券の発行が出来ることとされ(会社法214条)、この場合には、その旨の登記も必要とされた(会社法911条3項10号)。

 そこで、株券を発行する場合には、たとえば定款に次のように定めることになる。

例1
 (株券の発行)

第○条 当会社の株式については、株券を発行する。

例2
 (株券の発行)

第○条 当会社は、株式にかかる株券を発行する。

 ところで、例1は、法務省民亊局長通達(平成18年4月26日民商第1110号)が示す登記の記載例、例2は、全国株懇連合会の示す「定款モデル」である。定款に規定する場合は、どちらの文例でもよいが、5月1日より前に設立された株券発行会社については、登記官が職権で「当会社の株式については、株券を発行する。」と登記している(整備法76条4項、136条12項号3号)ので、万一6月定時総会等で定款を変更する場合に、例2の「当会社は、株式にかかる株券を発行する。」というように変更すると、変更登記を申請する必要がある(法務省の見解)ので、注意する必要がある。