やさしい商業登記教室 第48回 簡易合併の可否
A ただし、本件は合併で甲の純資産額が減少するため、簡易合併の要件を満たさないことに留意する必要があります。 【解説】 1. 抱き合わせ株式には対価の割当て不可 この合併で、甲は合併対価を交付できません。乙の株主は甲自身だからです(会社法749条1項3号カッコ書)。 2. 抱き合わせ株式消滅損益の発生 結果として、この合併で甲は300万円の財産増加と抱合わせ株式分1,000万円の財産減少で、差引き700万円の財産が減少します。甲の立場からみると、1,000万円の株式投資をしたところ、結果として700万円の損失を招いたということになります。これを抱き合わせ株式消滅損といい、特別損失に計上されます(改正前会社計算規則14条5項参照、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針206項)。 3. 簡易合併の可否 商法時代はこの解釈でしたから、増資により債務超過を解消し、簡易合併で完全子会社を吸収合併することもよく行われていました。合併差益(受け入れ財産のプラス)と抱き合わせ株式消滅損益とは、別次元の問題だからです。 しかし、会社法では、会社法施行規則195条により、会社法795条2項1号の承継負債額は、合併直後の負債の額から合併直前の負債の額を控除したもの、承継資産額は、合併直後の資産の額から合併直前の資産の額を控除したものだとされました。 本件では、合併直前・直後の資産・負債状況は、次のようになります。 直後の資産の額が甲乙の資産の額の合算である1億300万円にならない理由は、合併によって抱き合わせ株式が消滅するためです(合算額1億300万円?抱き合わせ株式1,000万円=9,300万円)。 この結果、差引きの承継負債額は1,000万円、差引きの承継資産額は300万円となり、承継負債額が承継資産額を上回ることになり、簡易合併の要件を満たさないこととなります。 仮に、乙が合併前に増資をしたとしても、この関係を解消することはできません。 (担当 商業法人登記総合研究5人委員会委員 ESG法務研究会代表・司法書士 金子登志雄) ※ 本問は、雑誌「登記情報」574号45頁以下にも掲載されています。 |