やさしい商業登記教室 第51回 相続等による事業の承継②

Q.相続等による事業の承継②
 株主に相続が発生した後に、会社法174条の売渡請求に係る定款の規定を設けることができますか?


 できると解されます。

【解説】
 会社法174条の売渡請求の制度は、濫用的に利用されるおそれがないとはいえません。
このため、現実に相続などの事件が発生した後に、必要に応じて当該定款の定めを設け、必要がなくなったときはこれを廃止することが実務上の安全策となり得ます。

 この点、相続等の発生後に売渡請求の制度を導入することは、相続人にとって不意打ちとなるので、認められないとの見解もあります(山下編・前掲121頁[伊藤雄司])。

 しかし、会社法174条は、売渡請求に係る定款の定めを設ける時期について、限定していないことから、相続等の開始の後に本制度を導入することができると解されています(相澤哲=葉玉匡美=郡谷大輔編著『論点解説新・会社法』162頁)。

 相続等による株式の承継の場合にも、承継人が株式会社に好ましい株主であるかの判断の機会を与えるという会社法174条が立法された経緯から、明文のない限り、本制度の利用の範囲を広く認めることが自然な解釈といえます。

 定款変更決議においては利害関係株主の議決権が制限されることはありませんから、この解釈によれば、相続等の開始後に売渡請求に係る定款の規定を設ける定款変更をすることにより少数派株主による制度の濫用の問題を回避することができます。

(担当 商業法人登記総合研究5人委員会委員 司法書士 山本浩司)

※ 本問は登記情報580号22頁以下にも掲載されています。