やさしい商業登記教室 第52回 医学部同窓会の一般社団法人化と非営利型法人

医学部同窓会の一般社団法人化と非営利型法人

一般社団法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者
一般社団法人商業法人登記総合研究所代表理事
桐蔭横浜大学法学部客員教授
神 崎 満 治 郎

1. はじめに

 同窓会の一般社団法人化が徐々に進んでいるようである。筆者は、旧中間法人法が施行された平成14年4月1日、公証人としてわが国第1号の中間法人として北里大学医学部同窓会の定款を認証するとともにその後の設立登記手続についても間接的に関与し(4月1日定款認証、同日設立登記申請。現在は、一般社団法人へ名称変更登記済み。)、本年4月1日には九州大学医学部同窓会の一般社団法人化に関与する機会を得た(4月1日設立登記を了したが、設立登記の申請は、当倶楽部会長で福岡県司法書士会名誉会長の下川眞一先生が担当された。)。医学部は他の学部よりも同窓生の絆が強く、資産もかなり有している場合が多いところから、今後、他の大学の医学部同窓会においても、法人化が進むものと思われる(同窓会館等の不動産を所有する場合は、法人化は必須である。)が、医学部同窓会の一般社団法人化に際しては留意すべき点がいくつかあるので、要注意である。

2. 医学部同窓会の一般社団法人化と留意点

 法人設立と税の関係については、これを司法書士サイドから見た場合、法人税等税の問題は、法人成り後の問題として捉え、設立登記終了後、税理士等にバトンタッチする方向で処理されている。ところが、同窓会等の一般社団法人化の場合は、定款作成段階から税の問題が不可避の問題となる。なぜなら、同窓会を法人税法の改正(同法2条9号の2の新設)によって新設された「非営利型法人」とするためには(筆者は、医学部同窓会の場合は、必ず非営利型法人にすべきであると考える。)、原始定款に必ず定めなければならない事項と定めてはならない事項があるからである(法人税法施行令3条1項、2項)。したがって、司法書士も、同窓会等を一般社団法人化する場合には、非営利型法人の問題を避けて通ることはできないのである。

 ところで、同窓会を一般社団法人化する場合の原始定款の記載事項については、前記非営利型法人の問題以外に、①代議員制を採用するか否かという問題(筆者は、医学部同窓会の場合は、採用した方がよいと考える。)と②同窓会を効率的に運営していくために、必ず記載した方が良い事項(定款の相対的記載事項)があるが、本稿では、紙幅の関係から、非営利型法人についてのみ述べることにする。

 なお、代議員制については、これを採用しないと(卒業生全員を社員にすると)、現実に円滑な社員総会の運営は困難と考えるが、これについては法人法に何ら規定がなく、定款の記載事項を含めて、すべて解釈にまかされていることにも留意すべきであろう。

3. 同窓会の一般社団法人化と非営利型法人にすることの可否

 筆者は、医学部同窓会の一般社団法人化に際しては、必ず「非営利型法人」にすべきであると考えるが、その理由は、非営利型法人であれば収益事業のみが課税対象になるところ(収益事業を営む同窓会は少ないと考える。)、非営利型法人でない場合(普通法人の場合)には、全所得が課税対象になるということである。したがって、一般社団法人化する前の権利能力なき社団としての同窓会が有していた資産(医学部同窓会の場合、かなりの額の預貯金を有しているのが通常であろう。)を、一般社団法人化後の同窓会に寄附すると、非営利型法人の場合は課税の問題は生じないが、普通法人の場合は、それは所得(必要経費を控除した残余の金額)として課税対象になることに注意する必要がある。これは、税にあまり知識のない筆者には理解し難いことであるが、権利能力なき社団としての同窓会は、収益事業のみが課税対象になるとのことである。そこで、一般社団法人化した同窓会を非営利型法人にしない場合には、法人化前より課税強化になる可能性もあるので、要注意である。

4. 非営利型法人の要件

 非営利型法人には、「非営利性が徹底された法人」と「共益的活動を目的とする法人」の二つの類型があるが、同窓会は、通常「共益的活動を目的とする法人」に該当すると思われるので、本稿では、紙幅の関係上、非営利型法人のうち、共益的活動を目的とする法人の要件についてのみ述べることにする。

 ところで、共益的活動を目的とする法人は、その会員から受け入れる会費により当該会員に共通する利益を図るための事業を行なう法人であってその事業を運営するための組織が適正であるもので、次のすべての要件に該当する一般社団法人又は一般財団法人である(法人税法施行令3条2項)。

① その会員の相互の支援、交流、連絡その他の当該会員に共通する利益を図る活動を行うことをその主たる目的としていること。
② その定款(定款に基づく約款その他これに準ずるものを含む。)に、その会員が会費として負担すべき金銭の額の定め又は当該金銭の額を社員総会若しくは評議員会の決議により定める旨の定めがあること。
③ その主たる事業として収益事業を行なっていないこと。
④ その定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与える旨の定めがないこと。
⑤ その定款に解散したときはその残余財産が特定の個人又は団体(国若しくは地方公共団体、公益社団法人又は公益財団法人、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律5条17号イからトまでに掲げる法人又はその目的と類似の目的を有する他の一般社団法人若しくは一般財団法人を除く。)に帰属する旨の定めがないこと。
⑥ ①から⑤及び次の⑦の要件のすべてに該当していた期間において、特定の個人又は団体に剰余金の分配その他の方法(合併による資産の移転を含む。)により特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。
⑦ 各理事について、当該理事及び当該理事の配偶者又は3親等以内の親族その他当該理事と財務省令で定める特殊の関係のある者である理事の合計数の理事の総数に占める割合が、3分の1以下であること。

5. 非営利型法人と定款の記載事項等

 非営利型法人に該当させる場合には、4の①及び②については定款に記載し、④及び⑤については定款に記載してはならないことに留意する必要がある。③の収益事業とは、法人税法施行令5条に掲げる34の事業である。

 なお、一般社団法人を設立した場合、普通法人(非営利型法人でない法人)については所轄税務署及び都道府県税事務所に対する「法人設立届」が必要であるが、非営利型法人については所轄税務署に対する「法人設立届」は不要である。

注‥本稿は、登記情報563号8頁掲載の拙稿を転載したものです。