商業登記漫歩 平成22年6月28日号(38号)

◇ 本号では、まず、「法務行政のあり方」について、法務OBとしての要望を述べてみることにします。これは、過去においても、当漫歩でとりあげたことのある問題ですが、過去数年にわたって、いわば実務の慣行として取り扱われてきた取扱いを変更する(受理から不受理=却下に変更する)場合には、合理的な周知期間を設けるべきであるということです。いくら「過ちを改めるにはばかることなかれ」といっても、過去の長年にわたる取扱いにも、それなりに合理的な理由があったわけですから、これを変更するには、それなりの手順を踏むべきであるということです。

◇ 事案は、社会福祉法人の代表権を有する理事の変更登記に関する問題です。
  ご承知のように、①社会福祉法人の設立には、所轄庁である都道府県知事(例外として、政令指定都市の市長、中核市の市長、厚生労働大臣)の認可を要し、②役員としては、理事3人以上及び監事1人以上を置かなければならず(社会福祉法36条1項)、③「理事は、すべて社会福祉法人の業務について、社会福祉法人を代表する。ただし、定款をもって、その代表権を制限することができる。」とされています(社会福祉法38条)が、理事の選任の方法については、根拠法である社会福祉法に直接規定されておらず、「役員に関する事項」として、定款の記載事項とされています(社会福祉法31条1項5号)。そこで、厚生労働省は、「社会福祉法人定款準則」(以下「定款準則」という。)を制定し、これを、都道府県知事、政令指定都市の市長及び中核市の市長に通達していますので、所轄庁である都道府県知事等はこの定款準則に従うことになり、現実に社会福祉法人においても、定款準則に従った定款を作成しています。

◇ ところで、定款準則5条2項では「理事のうち1名は、理事の互選により、理事長となる。」と定め、同条3項では「理事長は、この法人を代表する。」と定めています。したがって、社会福祉法人においては、原則として、理事長のみが「理事」として登記されることになりますが、定款準則9条1項では、「この法人の業務の決定は、理事をもって組織する理事会によって行う。」と定め(理事会については、社会福祉法に規定はありません。)、同条8項は、理事会議事録の署名(又は記名押印)義務者を議長及び理事会において選任した理事2名と定めています。そこで、問題は、理事の互選形式をとらず、理事会において理事長を選定した場合の取扱いです。この問題について、大阪法務局ブロック管内においては、従来は、①互選の要件を満たしている場合には、これを互選として取扱い、②定款に定める議事録署名人の署名(又は記名)押印で(登記所届出印が押印されていない場合には、3名の印鑑証明書添付)でよいとする取扱いであったが、今回大阪法務局ブロック管内では、この取扱いを「出席理事全員の署名(又は記名)押印を要する。」と周知期間を置くことなく一方的に改め、従わなければ却下すると各司法書士会に通知してきたようです。皆さんは、いかがお考えでしょうか。法務局の主張は、正論です。しかし、長年にわたる慣行にも、それなりの理由があると考えますので、社会福祉法人に対する周知期間は是非置いて欲しいと考えます。法務局の変更理由は、法改正に伴うものではないと考えますが、従わなければ却下というのであれば、まず、長年にわたりこの却下すべき登記を受理してきた登記官の責任も厳しく追及すべきと考えます。しかし、当局には、その気は100%ないでしょう。それをしますと登記官の士気は間違いなく低下します。そうであれば、一定の周知期間を置くのは当然ではないでしょうか。
  なお、当職の法務省在職中は、各種会同における民亊局長指示に必ず「国民のための法務行政」という言葉がありましたが、今は、どうなっているのでしょうか。

◇ そこで、提案です。理事会議事録に押印されている印鑑が、登記所届出印の場合は、
例え議長及び理事2名の署名(又は記名)押印であっても、受理するという取扱いは出来ないものでしょうか。この取扱いは、一般社団・財団法人法95条3項でも認めている方法ですから、真正担保上も問題はないと考えます。
  なお、登記所届出印を押印していない場合は、当然議長(理事)及び出席理事全員の印鑑証明書を添付することになりますが、いかがでしょうか。是非、ご検討をお願いします。

(一般社団法人商業登記倶楽部代表理事 神崎満治郎)