商業登記漫歩 平成28年12月12日号(63号) 「株主リスト」に関する問題点


商業法人登記総合研究5人委員会              
(一般社団法人商業登記倶楽部代表理事 主宰者)神崎満治郎    
(司法書士)金子登志雄    
(司法書士)鈴木 龍介    
(司法書士)山本 浩司    

 改正商業登記規則61条2項・3項が本年10月1日から施行され、登記すべき事項につき株主全員の同意や株主総会の決議等を要する場合には、登記申請に当たり、いわゆる「株主リスト」の添付が必要になりました。法務省からは平成28年6月23日付で「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」の通達(民商98号)と依命通知(民商99号)が発出されただけでなく、その書式例等も公表されています。それらを拝読した限り、大きな問題点はなさそうだと思っておりましたところ、いざ施行されてみると、実務面でも理論面でも重要な問題点がいくつか浮かび上がってまいりました。ただし、未だ議論は熟しておらず、各法務局でも個別事案ごとに試行錯誤で対応している状況ですので、当委員会で統一見解を出すには時期尚早のようです。そこで、本稿では、当委員会で気付いた問題点を指摘し、その考え方の相違点(肯定説と否定説の想定根拠)を提供することを主目的にいたしましたので、本稿を管轄法務局との相談資料としてご利用いただければ幸いです。なお、本稿内の条文内容は抜粋であること、条文を示す括弧内では、会社法は(会)、商業登記法は(商登)、商業登記規則は(規則)と表示していることをお断りいたします。
一般社団法人商業登記倶楽部 代表理事 主宰者        
神崎満治郎        

1 株主リストが必要な場合
Q1 決議等を「要する場合」とは
 商業登記規則61条2項には、「登記すべき事項につき(株主)全員の同意を要する場合」、同条3項には「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」とありますが、何をもって「要する場合」と判断するのですか。例えば、資本金の額の減少や吸収合併等では、例外的に株主総会の決議を要しない場合がありますが(会447条3項や簡易・略式合併など)、原則に戻って「株主総会の決議を要する場合」と判断するのでしょうか。それとも、個別のケースごとに判断するのですか。
A1 商業登記規則61条2項・3項は、株式会社の登記の添付書面について規定する商業登記法46条1項・2項・3項を受けたものと思われます。以下、説明の便宜上、株主総会の決議を要する場合について説明しますと、商業登記法46条2項には、「登記すべき事項につき株主総会の決議を要するときは、申請書にその議事録を添付しなければならない。」とあり、前段は商業登記規則61条3項とほぼ同一表現です。これを前提にすると、商業登記規則61条3項についても、株主総会議事録が登記申請の添付書面として提出されている場合だといえますから、「株主総会の決議を要する場合」とは、端的に「株主総会で登記すべき事項につき決議した場合」と読み替えて差し支えないと考えます。その意味で個別のケースごとの判断になります。
 資本金の額の減少につき会社法447条3項により株主総会の決議を要しない場合に、あえて株主総会で資本金の額の減少を決議した場合も、簡易合併や略式合併の要件を具備しているのに、株主総会で吸収合併を決議した場合も、その株主総会議事録が登記申請の添付書面になりますから、「株主総会の決議を要する場合」に当たります。
 「登記すべき事項につき」とは、株式会社の登記すべき事項(登記事項)である「商号」、「本店」、「資本金の額」、「株式の譲渡制限に関する規定」、「役員に関する事項」などの変更や設定、廃止、さらには「解散」や「吸収合併」などを株主総会の議題として決議した場合だといえます。登記事項そのものを議題とした場合ばかりではなく、登記事項の直接の変更原因の全部又は一部を議題にした場合を含みます。例えば、「募集株式の発行の件」も、「募集株式の発行(による発行済株式の総数及び資本金の額の増加)の件」の括弧が略されているだけですから、登記事項(登記原因)を議題にした場合に該当します。
 もとより、登記事項に該当しない事業年度の変更や剰余金の配当、自己株式の取得の決議などは含みません。取締役等の席上の辞任で株主総会議事録の記載を援用する際も、辞任届に平成〇年〇月〇日開催予定の株主総会終結時に辞任するとあり、その辞任時期を証するため株主総会議事録を添付する際も、登記事項である「取締役等の変更」を議題に決議したわけではないため、商業登記規則61条3項の適用はありません。
 この株主総会の決議は個別に判断され、例えば、株主総会の決議事項が「第1号議案 定款一部(目的)変更の件」「第2号議案 取締役1名選任の件」「第3号議案 取締役の報酬額改定の件」であれば、第1号議案と第2号議案の2つを指し、それぞれに株主リストの添付が必要ですが、内容が同一であれば、その旨を示して1通を添付することで足ります。議題個々の決議要件とは無関係です。
 以上より、株主リストが必要な場合とは、株式会社の登記申請において登記事項(の変更、設定、廃止、解散等)を議題にして決議した株主総会議事録が添付されたときであり、株主リストは、その決議の真実性を担保するものですから、株主総会議事録が添付されない場合には、株主リストの添付も不要です。この意味では、株主リストは独立した添付書面ではなく、株主総会議事録の補完資料だともいえます。

Q2 会計監査人のみなし再任の場合
 会社法338条2項によると、会計監査人は、任期が満了する定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなされますが、別段の決議がなかったことを証するため、定時株主総会議事録の添付が必要です。この定時株主総会議事録に株主リストは必要ですか。
A2 株主総会議事録を添付する場合であっても、会計監査人の再選議案がなく、その決議の真実性を担保する必要もないため、株主リストは不要です。会社法338条2項の場合は、再任がみなされ、会計監査人の選任につき「株主総会の決議を要しない場合」に該当します。

Q3 定款変更による取締役等の退任の場合
 任期中の取締役等が定款変更による任期の短縮の結果として定款変更の効力の発生と同時に任期を満了して退任することがあります(会332条7項等参照)。この場合、退任を証する書面として定款変更を議題とした株主総会議事録を添付しますが、株主リストは省略することができますか。
A3 一見、取締役等の変更登記の原因事実を決議したようにみえるため、必要説を主張する登記所もあるようですが、任期の満了による退任を証する書面として定款変更を決議した株主総会議事録が必要になっただけで(商登54条4項)、解任以外の取締役の退任という登記事項には、それを議題とした株主総会の決議を要しませんから、株主リストは不要だということになります。言い換えれば、株主総会の決議は定款変更に向けられたもので、取締役等の退任に向けられたものではありません。本件でも、株主総会議事録の添付を要しますが、それは、「退任を証する書面」として添付するのであり、「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する」という理由で添付するわけではありません。

Q4 清算結了登記の場合
 商業登記法75条によると、「清算結了の登記の申請書には、会社法第507条第3項の規定による決算報告の承認があつたことを証する書面を添付しなければならない。」とされていますが、この「決算報告の承認に関する株主総会議事録」は、登記すべき事項(清算結了)を決議したわけではないので、株主リストは不要だと考えますが、いかがですか。
A4 不要説と必要説の両説が考えられます。
 不要説は、清算の結了は事実の問題であり、かつ決算報告の承認は清算結了の効力要件ではないこと(松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』529頁)、さらに、商業登記法が、同法46条の他にわざわざ75条を置き、「清算結了の登記の申請書には、会社法第507条第3項の規定による決算報告の承認があつたことを証する書面を添付しなければならない。」と規定したのは、決算報告の承認が「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」に当たらないためであることを主たる根拠にします。商業登記法75条は、株主総会「議事録」の添付を要求しているだけで、「決議」を要求していないとの鋭い指摘であり、当委員会の山本の指摘であります。
 これに対して、必要説は、清算の結了時期を「会社法第507条第3項の規定による決算報告の承認があつた」時に設定したものであり、清算結了の実体要件を決議したものではなくとも、商業登記法がその承認決議をもって清算結了の登記の要件としたわけだから、「(清算結了という)登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」(規則61条3項)に準じてもよいというものになるかと思われます。
 結局は、商業登記規則61条3項につき、株主総会が登記事項(又は、その原因)を議題として決議した場合に限定しているのか、より広く登記事項そのものに商業登記法が事実の証明のため株主総会議事録の添付を要求している場合をも含むのかの差かと思われます。なお、法務局のホームページにある「商業・法人登記の申請書様式」(以下、「法務局書式例」という。)には株主リストの記載がありました。その根拠については不明です。

2 登記申請人以外の株主リストの要否

Q1 株式会社が申請人の組織再編の場合
 組織再編では、登記申請人以外の株主総会議事録を添付することがあります。例えば、吸収型再編でいうと、甲株式会社が合併存続会社となり、乙株式会社を吸収合併した場合に、甲株式会社の登記申請に当たり、商業登記法80条6号により添付する乙株式会社の合併契約承認の件を議題にした株主総会議事録であり、新設型再編でいうと、乙株式会社を分割会社として、新設分割により甲株式会社を設立するに際し、甲の設立登記申請に当たり、商業登記法86条6号により添付する乙株式会社の新設分割計画承認の件を議題にした株主総会議事録ですが、これらの場合に、登記申請人ではない乙の株主総会議事録に株主リストは必要ですか。
A1 商業登記規則61条3項の「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」の株主総会は登記申請人以外のものを含むかどうかという問題ですが、組織再編の場合は、他社のものであっても、登記原因の1つですから、一般には当然に含むと解されています。
 ところが、商業登記法においては、吸収合併消滅会社乙の株主総会議事録を添付する根拠は商業登記法80条6号、新設分割では同法86条6号であり、商業登記規則61条3項と同一文章の商業登記法46条2項とはされていません。商業登記規則61条3項と商業登記法46条2項は、ほぼ同一文章でありながら、商業登記法では乙の株主総会議事録を含まず、商業登記規則では含むという解釈が成り立つのかという理論問題が発生します。
 これについては、商業登記法における株式会社の添付書面に関する基本構造が、同法46条と47条の2元的構成なのか、46条の1元的構成なのかによって異なります。2元説は、商業登記法46条は既存株式会社が単独でする登記申請に関する代表的規定、47条が株式会社単独の設立に関する代表的規定で、この2つを基本として、複数の会社が関与する吸収型再編における登記申請人以外の株主総会議事録は同法80条6号等に、株式会社の設立となる新設型再編は同法86条6号等に個別に規定されていると解釈する立場です。この立場では、商業登記法46条2項には乙の株主総会の決議が含まれませんから、ほぼ同一文章の商業登記規則61条3項でも、乙の株主リストは不要だという結論を導くことになります。
 1元説は、商業登記法46条は、株式会社が申請人になる登記全般に関する添付書面の通則規定であり、もともと、設立や組織再編の場合を含むが、設立や組織再編の特殊性に鑑み、特に注意規定を定めたものと捉える立場です。これによれば、商業登記法46条2項も商業登記規則61条3項も本件乙の株主総会の決議を含んでいると解釈することができますから、合併消滅会社乙の株主リストは必要だという結論になります。
 甲乙間の吸収型再編では、①甲の登記申請(同時申請2分の1)、②乙の登記申請(同時申請2分の2)の2つが同時にセットで申請されますが、本件の吸収合併でいうと、甲の登記原因の発生にも、乙のそれにも、甲と乙2社の合併承認決議が必要であり、乙の合併承認決議は甲の合併による変更の登記原因であり、甲の合併承認決議は乙の合併による解散の登記原因でもあります。そこで、①と②の添付書面を①に集中させたと考えられますから、乙の株主リスト必要説が多数説だと思われ、登記実務上も、必要説で運用されています(法務局書式例参照)。なお、吸収型再編に属す吸収分割と株式交換も同様に考えられます。
 新設型再編についても、登記実務は必要説です(新設合併に関する法務局書式例参照)。1社単独の新設分割でも、新設会社と分割会社で共同して行う同時申請行為であることや、商業登記法87条6号等は同法46条の注意規定であるという捉え方(1元説)を前提にしたものと思われます。その根拠はともかく、登記実務は必要説で固まっていると思われます。

Q2 株式会社の組織変更の場合 
 乙株式会社が組織変更により甲合同会社になる場合の乙の総株主の同意があったことを証する書面には、株主リストが必要ですか。同時申請2分の1は、甲合同会社という持分会社の設立の登記であるため、商業登記規則61条の適用はなく、不要だと考えますがいかがですか。
A2 本件の添付書面につき規定している商業登記法77条に、総株主の同意があったことを証する書面が規定されておらず、その根拠は商業登記法46条1項の「登記すべき事項につき株主全員の同意を要するときは、申請書にその同意があつたことを証する書面を添付しなければならない。」だとされています。商業登記法46条1項は株式会社の登記申請に関する規定であるにもかかわらずです。
 これは、組織変更では2つの登記申請が同時になされるとしても、組織再編と相違し複数の会社の行為ではなく、純粋に1社の行為であり、その実質は商号変更に異ならず、法人格の同一性も維持されますから(商登76条)、本件で言えば、「甲合同会社こと乙株式会社」と捉え、甲合同会社の設立登記を株式会社の登記事項に含めたものと考えるしかありません。持分会社が申請人になる場合は、商業登記法3章(登記手続)においても、持分会社の登記の節(6節以下)に規定されているのに、持分会社の設立となる株式会社の組織変更は株式会社の登記の節である5節に規定されていることもその根拠になります。
 したがって、商業登記法の規定上は若干の疑問が残りますが、組織再編では2社の同時申請だが、組織変更では1社の登記申請を便宜上2つに分けただけであること、商業登記法46条1項を根拠に総株主の同意があったことを証する書面の添付が必要だという運用が長期になされていたことを前提にする限り、株主リスト不要説は困難です。
 なお、法務局書式例は当然ながら肯定説であり、株主リスト作成者につき「代表社員」にしていますが、法務省のホームページの「株主リストの要否・内容についてのフローチャート」に「株式会社の登記申請ですか?」という項目があること、民商99号でも株主リストの作成者につき「代表取締役」と明記されていますので、勘違いしやすいため、ご注意ください。

3.登記申請人以外の株主リストの作成者

Q1 民商99号の解釈
 民商99号第2の2「(2)具体例」の部分に「規則第61条第3項に規定する書面としては、代表取締役の作成に係る同項に規定する事項を証明する書面であって、登記所に提出された印鑑が押印されたものがこれに該当する。」とあり、それ以上の説明はありませんが、その証明方法に限られるのですか。
A1 限定説と従来の登記実務の延長で捉える例示説の2つが考えられます。
 登記情報659号(2016年10月号)25頁以下の法務省民事局付辻雄介氏による民商99号の解説である「平成28年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて」によると、私見だと断りながらも、同32頁で「なお、当該株式会社が株主名簿管理人(会第123条)を置く場合であっても、株主名簿管理人は、登記所に印鑑を提出した当該株式会社の代表者ではないから株主リストの作成名義人となることはできないものと考えられる。」とありました。登記官において、株主リストの作成の真正を確認することができるようにするため、民商99号は、登記申請会社の代表取締役の登記所届出印による証明に限っているとの文理に忠実な解釈です。
 これに対して、例示説は、第三者である株主名簿管理人の作成によるものが登記申請人自身によるものより証明力が高いはずであり、これを否定するのは困難であると考える従来の登記実務の取扱い(後記【】部分参照)の延長で民商99号を捉える立場です。法令が証明方法を限定していないのに依命通知で限定することは困難であること、従来の取扱いを変更したものだとしたら、民商99号はあまりに短い内容で説明不足であること(組織再編等につき一言の説明もない。)、また、文面上も項目の見出しに「具体例」とあり、内容にも「これに限る。」とも記載されていないことなどから、単に代表取締役の証明を1例として紹介しただけで、従来どおり、他の証明も可能であるだけでなく、むしろ、登記申請人よる代表者の証明でも足りるとの証明書の緩和策を示したものと解釈する立場です。本説は、民商99号が押印方法を登記所届出印に指定している点にも着目し、これは資本金計上証明書などの従来の法務局書式例と同様だから、あの文章は、株主リストの書式例の1つを示したものと理解するようです。
 現状の登記実務の取扱いは今のところ限定説に基づいていますが、これによると、さまざまな支障が生じるため(後記Q2以下参照)、事前に民商99号で十分な説明がなされていたことでしょうから、最近は例示説が勢いを増してきたように思われます。
【従来の登記実務の取扱い】
1. 証明書の提出者(登記申請人)と作成者(一種の証人)は別人であるのが証明の大原則だから、これを基本とするが、第三者(ケースにより銀行や株主名簿管理人など)の証明を得るのが容易でないときに申請人の負担を軽減するため例外として自己証明(登記申請人による証明)を許容する。例えば、平成18年3月31日付民商782号通達では自己証明を「代表者の作成に係る証明書等」としている。「代表取締役」ではなく「代表者」として株式会社に限定していないだけでなく、しかも証明書に「等」を加えたことは、自己証明に限定されないことを明記したものといえる。また、押印についても登記所届出印に限定していない。登記所届出印の押印は資本金計上証明書などの法務局書式例での要請に過ぎず、法令又は通達での申請人の義務とはされていない。登記申請の委任状に登記所届出印が押印されていれば、それで添付書面の真正担保として十分だからである。
2. 自己証明は例外だから、その証明は原則として登記申請人である自社のことに限られる。商業登記法69条を根拠とする資本組入れの原資である準備金や剰余金が計上されていたことを証する書面や商業登記規則61条10項による一定の分配可能額又は欠損の額が存在する事実を証する書面がその典型例である(前掲民商782号通達参照)。この場合でも、準備金や剰余金の計上証明書について、松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』227頁・225頁では、旧商法時代に認められていた監査役の証明を肯定している。その前提は、自己証明は例外で最後の手段だということだと思われる。
3. 登記実務上、合併消滅会社による略式合併証明書、株券不発行証明書、債権者に催告したことを証する書面(新設合併の法務局書式例参照)、会社分割における分割会社による簡易分割証明書、新設分割における分割会社による資本金計上証明書などは、本人である合併消滅会社等による証明が自然であり、登記申請会社の代表者による自己証明に限定されていない。

Q2 登記申請人以外が株主リスト作成者
(1) 先日開催の利益剰余金の資本金の額への組入れ議案に関する株主総会議事録につき、当時の代表取締役Aが議事録作成者となり、利益剰余金の存在を証する書面(商登69条)も、株主リストも管轄登記所への届出印で作成しておきました。ところが突然の人事異動でAが取締役を退任したため、現在の代表取締役はBになっています。これから資本金の額の増加と取締役及び代表取締役の変更登記を一括して申請しますが、株主リストの作成者はAのままで問題ないでしょうか。
(2) 特例有限会社を通常の株式会社に移行します。代表取締役は変更しませんが、改印はします。特例有限会社の株主リストにつき、その代表取締役が有限会社時代の登記所届出印を押印しましたが、認められませんか。
(3) 株主は1人であるため、株主総会議事録の出席株主状況の欄に株主リストを書き込みました。議事録作成者は総務担当取締役(あるいは代表取締役だが個人印での押印)ですが、登記申請上支障がありませんか。
(4) 吸収合併消滅会社の株主リストを合併の効力発生日以前の日付で吸収合併消滅会社が作成した場合も、認められませんか。
A2 いずれも、前記の例示説によれば肯定されますが、限定説では、登記申請会社の代表取締役の届出印による押印ではないため、否定されることになると考えます。なお、(3)につき、登記所届出印よりも株主総会議事録を用いたほうがより重い証明力があるものと考えますが、いかがでしょうか。

Q3 会社分割等における株主リスト作成者
 会社分割や株式交換・株式移転における同時申請2分の2の会社は存在しているわけですから、その作成を否定し、申請会社の代表者が他社の株主リストの作成者になることには、強い抵抗があります。よい対策はないでしょうか。
A3 民商99号を限定説で解すると、乙が乙のことを証明してもこれを認めず、登記申請人である甲が他社である乙のことを証明しなければならないため、登記申請人側も登記所側も困惑している現状です。前記の繰り返しになりますが、甲(吸収分割承継株式会社)と乙(吸収分割会社)で説明しますと、第1に、甲の登記申請において乙の株主リストにつき甲自身が証明するよりも、本人である乙自身の証明のほうが、証明力が高いこと、第2に、乙の株主構成を知らないはずの甲が作成者になることは、乙の定款の原本証明を甲がするのと同様に不自然であり、一種の伝聞証拠にも近いこと、第3に、乙の債権者保護手続の履践に関する証明や簡易分割(会784条2項、805条参照)に関する証明は乙自身がすることを許容してきた登記実務の伝統に反すること、などが問題になります。
 こういう問題点は事前に想定することができましたから、民商99号は例示説を前提にしていたに相違なく、実務上も例示説の採用を希望せざるを得ませんが、限定説を前提にした場合には、登記申請の委任状に「なお、乙株式会社の株主リストは別紙のとおりです。」との記載があれば、これをもって登記申請会社甲の代表取締役による届出印で証明したことにもなるという取扱いを希望したいものです。

(注)本稿は平成28年11月3日に執筆したものです。
(「登記情報」平成28年12月号93頁から転載)