やさしい商業登記教室 第2回 登記所という名の役所

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第2回 登記所という名の役所

A Bさん、「登記所」という官庁をご存知ですか。

B 法務局のことでしょう。私の事務所の先生(司法書士)が、法務局のことを、港の登記所とか新宿の登記所とか言っていますので……。

A それでは、Bさん、法務局に登記所という看板がでていますか。

B ……。でていないですね。何故でしょう。

C 私も不思議に思っていました。不動産登記法や商業登記法には、「登記所」という役所がさかんに登場していますが、登記所という看板をかけた役所はないですね。

A 何故でしょう。「登記所」という名称は、商法にも登場します。Bさん、商法第9条を読んでみてください。

B 商法第9条「本法ニ依リ登記スベキ事項ハ当事者ノ請求ニ依リ其ノ営業所ノ所在地ヲ管轄スル登記所ニ備ヘタル商業登記簿ニ之ヲ登記ス」。商法にも、登記所が登場するのですね。

A そうです。ところで、国の行政機関の組織は、国家行政組織法という法律に定められており、そこに定められた各府省庁の組織および権限等は各府省庁の設置法に定められています。たとえば、法務省の場合は、法務省設置法ですが、ところが、法務省設置法や法務省の地方支分部局(各省庁の地方出先機関のこと)を定めた法務省組織令を調べても「登記所」という役所はでてきません。商法や商業登記法には、「登記所」という役所があるのになぜでしょうか。

A Cさん、商業登記法の第1条を読んでみてください。

C はい。商業登記法第1条「商業登記の事務は、当事者の営業所の所在地を管轄する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所が、管轄登記所としてつかさどる。」。商業登記法の第1条に、登記所と法務局の関係が規定されているのですね。

A そうです。ちなみに、法務局は全国に8か所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)、地方法務局は、全国に42か所(法務局所在地以外の府県所在地と旭川、釧路、函館)設置されています。
  そこで、登記所とは、次の官庁をいうことになります。○○法務局(いわゆる本局)、○○法務局○○支局、○○法務局○○出張所
  ○○地方法務局、(いわゆる本局)、○○地方法務局○○支局、○○地方法務局○○出張所

C 本局、支局、出張所に勤務する登記官(登記事務を処理する権限を有する公務員)の権限に差異はあるのですか。

A 登記法上の権限は同じです。

B Aさんは、○○法務局(または○○地方法務局)○○出張所が登記所とおっしゃいましたが、商業登記を取り扱わない出張所があるのは何故ですか。

A なかなか良い質問です。商業登記法第2条を読んでみてください。

B 商業登記法第2条「法務大臣は、一の登記所の管轄に属する事務を他の登記所に委任することができる。」

A はい。ありがとう。つまり、商業登記の事務を取り扱わない登記所は商業登記の事務を、法務大臣が、事務の合理的な処理等を考えて、他の登記所に委任しているわけです。これは、法務省令である「登記事務委任規則」に規定する方法によって行われています。
  今日のレッスンは、この位にしましょう。次回は、「登記官という名の公務員」です。

B、C ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。