やさしい商業登記教室 第3回 登記官という名の公務員

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第3回 登記官という名の公務員

A 今日は、新年第1回目のやさしい商業登記教室の開講です。景気回復のきざしは一向に見えませんが、明日を信じ、せめて心豊かに今年1年を過ごしたいと思います。元日の東京は、おだやかな天気に恵まれましたので、自宅から徒歩約20分の深川の富岡八幡宮に初詣に出かけました。江戸最大の八幡さまと自称するだけあって参道は人波であふれ、不景気の影はどこにも見えませんでした。苦しいときの神だのみという人もいましたが…。Cさんの資格試験合格も併せて祈願しておきましたので、頑張ってください。

C ありがとうございます。今年も、商業登記教室、よろしくお願いします。

A 今日のテーマは、「登記官という名の公務員」です。ご承知のように、登記所(法務局または地方法務局の本局、支局、出張所のこと)で、登記事務を処理する権限を有する公務員を登記官といいます。

B その登記官の権限ですが、具体的に、どのような権限があるのですか。

A 登記官の権限としては、申請された登記事件を受理するか、却下(不受理)するかを独立して単独で決定する権限を有しています。

B 登記官は、どのようにして任命されるのですか。たとえば、登記官採用試験といったものがあるのですか。

A 登記官採用試験といったものはありません。商業登記法第4条は、「登記所における事務は、法務局もしくは地方法務局、もしくはこれらの支局または出張所に勤務する法務事務官で、法務局または地方法務局の長が指定した者が、登記官として取り扱う。」と規定していますので、登記官は、法律知識のある経験豊かな法務局職員の中から、法務局の長が任命しています。登記事件にも、近頃は、結構複雑・難解なものがありますので、高度な法律知識が必要になります。

C 登記所における事務は、登記官として取り扱うということは、登記所の職員は全員登記官ということですか。

A そういうことではありません。登記所における事務は、すべて登記官の名において、登記官の責任で取り扱うということです。登記所には、登記官以外の職員(法務事務官)がたくさんいますが、この人達は、登記官の補助者として登記事務を処理しているわけです。しかし、登記事件を受理し、あるいは却下することは、登記官しかできません。これは、Cさんが、司法書士の補助者として、司法書士の事務を補助しているのとよく似た関係にあります。

B 登記官の数は多いのですか。

A そんなに多くはありません。法務局の登記関係の職場は、その職務の性質上、専門官制度が採用されていて、専門官として、商業登記所の場合、登記専門職、登記相談官、登記官、統括登記官、首席登記官という役職がありますが、今日のテーマとしてとりあげている「登記官」は、役職としての登記官ではなく、登記法上の官職としての登記官です。登記法上の登記官には、役職としての登記相談官、登記官、統括登記官、首席登記官が充てられ(任命され)ています。登記簿謄本の認証文は、その登記所の最上席の登記官(本局であれば首席登記官)の名前で発行されています。たとえば、大会社が集中している東京法務局本局の法人登記部門の首席登記官の場合、その名前で作成した証明書等が全国に流れていきますので、その知名度は抜群です。

C 各登記官が独立して権限を行使できるとしますと、同種事件で、特に会社の目的のような場合、A登記官は受理、B登記官は却下というようなことはありませんか。

A 登記官の権限のみから判断すればあり得ます。しかし、登記所も行政官庁ですから、そのようなことが生じないよう各登記官の見解を調整するポストとして統括登記官や首席登記官がいるわけです。また、却下事件については、法務局または地方法務局の長に報告することになっていますし、却下処分には、申請人は審査請求をすることができ、審査請求がなされますと法務局または地方法務局の長は、登記官に相当の処分を命じることができます(商登法118条)ので、適正な事務処理がなされるよう制度的な担保措置が取られています。

  それでは、新年第1回は、この位にして、次回のテーマは、「ほんとうに、よく改正される商法」です。