やさしい商業登記教室 第8回 改正商法シリーズ  100%現物出資で会社を設立する方法

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第8回 100%現物出資で会社を設立する方法

A 今年の4月1日から100%現物出資で株式会社または有限会社を設立する場合、検査役の調査を不要とする特例が設けられました。BさんもCさんもご存知でしょう。

C はい。改正前は、現物出所する財産の定款に定めた価格の総額が資本の5分の1を超えず、かつ500万円を超えない場合に限って検査役の調査は不要とされていました(商法173条2項1号、有限会社12条ノ2第2項)が、本年4月1日からこれの特例が設けられたということでしょう。

A そうですね。ただ、改正前においても、上場株式等を現物出資の目的とする場合は検査役の調査は不要とされていましたが、この制度は余り利用されていなかったように思います。今回は現物出資の目的財産の価格について税理士等の証明があれば、検査役の調査は不要というわけです。

B 現物出資の目的財産の価格について、証明出来るのは、税理士、税理士法人、弁護士、弁護士法人、公認会計士または監査法人ですね。

A そうです。ただし、現物出資の目的財産が不動産の場合には、不動産鑑定士の鑑定評価も必要です(商法173条2項3号)。

B 現物出資の対象となる財産に制限はあるのでしょうか。

A 特に制限はありませんが、貸借対照表に資産として計上出来るものに限られます。

C 現物出資の目的物は、設立後の会社に必要なものに限られるのではないですか?

A 現実に現物出資される財産は、設立後の会社に必要なものが多いと思いますが、法律上は、そのような制限はないようです。

C 税理士さん等が証明するのは、現物出資をする財産の価格だけでよいのですか。また、その価格に何百万円以内に限るといった上限はあるのですか。

A 証明を要するのは価格だけで、上限はあまりせん。

C そのようなことであれば、この制度の利用者は相当ありそうですね。

B 私の事務所には、まだ1件も依頼がありませんが……。

A 知人の公証人に聞いてみても、余り利用者はないとのことです。何故でしょうか。

B 何故でしょう?

C ……。

A これはボクの想像ですが、本年2月1日から資本金1円でも株式会社や有限会社が設立できることになりました(この会社を「確認株式会社」または「確認有限会社」といいます。)。現物出資について検査役調査の特例制度が設けられたのは本年4月1日からですから、先にスタートした最低資本金特例の確認会社の方が利用されているということではないでしょうか。

B そう言えば、この前、定款の認証に公証役場に行ったときに公証人にお聞きしましたところ、確認会社の定款認証はかなりあるとのことでした。

C 1円会社の設立がそんなにあるのですか…。

A 文字通りの1円会社は、本年10月17日現在208社、確認会社は5,610社ということです(10月23日付朝日新聞朝刊)から、かなり利用されているということですね。

C 5,610社といえばすごいですね。

A とにかく政府の方針として、経済活性化のために会社の設立を少しでも増やしたいということでしょう。そのために各省庁が知恵を出し合っていろいろなメニューを用意しているということでしょうが、確認会社については、毎決算期に貸借対照表を経済産業省に提出する必要があり、それが公開されることに留意する必要があります。
  それでは、今日のレッスンはこのくらいにして、次回は「会社の商号」についてです。