やさしい商業登記教室 第9回 類似商号

A…やさしい商業登記教室主宰者
B…商業登記を愛する司法書士事務所のOL(司法書士補助者)
C…中小企業の総務担当者。目下、資格試験受験準備中

第9回 類似商号

A 今日のテーマは、類似商号です。類似商号とは、①同一市町村(ただし、東京都の特別区の存する地域および政令指定都市にあっては区)に本店があり、②同一営業目的で、③判然と区別することが出来ない商号をいいます。新しく設立しようとする会社、商号を変更しようとする場合の変更後の商号、営業目的を追加しようとする会社の商号が、すでに登記されている会社と類似商号に該当する場合には、会社の設立登記や商号の変更登記等は受理されないことになります(商登法24条13号)。

C 子会社を設立する場合、類似商号には悩まされました。親会社としては、子会社を設立する場合、いろいろな事情から子会社の商号に親会社の商号の一部を用いたいわけですが、これが類似商号に該当すると登記官に判断されて、ほんとうに困りました。社長からは、“そんな馬鹿なことがあるか!”と言われますし、社長と登記官のサンドイッチです。

B 近頃は、登記官にもよりますが、類似商号の判断は随分柔軟になりました。それよりも、会社の目的の方が大変です。会社の目的を定款に記載する場合には明確かつ具体的に表現しなければならないとされていますが、その判断基準がないものですから、登記官、特に新任の登記官は厳しいですね。それでも、近頃は以前に比べれば随分柔軟になったように思います。

A 類似商号と会社の目的については、登記官の判断は厳しすぎるという声をよく聞きますが、Bさんが言われたように、近頃は以前に比べ随分柔軟になったように思います。しかし、一部の登記官に対しては、特に目的の明確性、具体性の判断が厳しすぎるという批判があることは否定出来ませんね。

C 何故、登記官は、それ程事業目的の明確性や具体性にこだわるのですか。私は、会社の目的を見て、その会社がどのような事業を営む会社か、不動産業とか建設業とか大体わかればよいと思うのですがね…。

A 初めに説明しましたように、類似商号に該当するかどうかは、まず、目的が同一(これは、目的の一部が同じ場合でも同一と判断される)ということが前提になるわけですが、この目的を明確かつ具体的に記載していないと登記官が目的が同一か否かの判断が出来ないというわけです。これを、法律的に表現しますと、「商号権の範囲は目的によって画されるので、目的は明確かつ具体的に記載すべきである。」ということになります。
  ところで、平成17年に制定が予定されている「会社法」(仮称)では、類似商号の制度を廃止するという方向で検討がなされているようです。類似商号の制度がなくなれば、目的の記載方法も、相当緩和されることになると思います。

C そうなれば、子会社の設立に際し、担当者として随分楽になります。

B だけど喜んでばかりおられませんね。だって、Cさんの会社と同じような商号の会社を、第三者が設立することが出来るのですから…。

A 本店の所在地が異なれば、たとえまったく同じ商号の会社でも、登記が可能になります。それで良いのでしょうか。

C それは困りますね…。その場合の対策は、何もないのですか。

A 不正競争の目的で会社を設立したということであれば商法21条や不正競争防止法によって対応することになりますが、いずれも裁判の場で対応する以外に方法はありません。

B うちの先生も、類似商号の制度がなくなった場合、クライアントの商号権をどのようにして守ればよいか、商号戦国時代になって大変だろうと心配しています。

A 類似商号廃止の問題は、登記官の判断が余りにも厳しすぎるため、その反動として出た気がするのですが、それにしても、同一本店・同一商号の会社以外は受理するという考え方は、自分の財産(商号権)は自分の力とお金で守れという随分極端な考え方だと思います。
  登記の予防的機能はどうなるのでしょうか。やはり、新しく会社を設立しようとする者の商号選定の自由と既登記商号権者の商号権の保護のバランスを考えて類似商号制度における登記の予防的機能は必要ではないかと考えます。

C そうですね。子会社の設立は楽になっても、当社と同一の商号の会社が自由に設立出来、その阻止は裁判しかないということになりますと、担当者としては、その対応も大変ですね。

A 類似商号制度の骨格は残しながら子会社の設立や目的の表現は柔軟化していくという折衷説が良いのではないかと考えますが、いかがでしょうか。