やさしい商業登記教室 第37回 補欠の意義(2)


1. 会社法のもとで「補欠」といえば、ほとんどの図書が会社法329条2項のいわゆる「補欠役員の予選」についてしか述べていない。
 しかし、まず実務で問題になるのは、たとえば前稿で述べたように、定款に「当会社に取締役6名以内を置く。」、「当会社に監査役2名以内を置く。」等と定め、補欠役員について前任者の残りの任期とする旨の任期短縮の定めのある会社において、現実に取締役5名、監査役2名が選任されている場合に、取締役1名または監査役1名が辞任したときにその後任(補欠)として選任された者が補欠取締役または補欠監査役に該当するか否かであるが、これについて述べている図書にはまだお目にかかったことがない。

2. 補欠の意義を、「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるとき」にその後任者として選任された者(会社法329条2項)と解すると、「役員が欠けた場合」とは取締役なら取締役が1人もいなくなることをいうので、本件の場合はこれに該当せず、また「法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるとき」とは、たとえば法律で定めた取締役の員数は取締役会設置会社では3名、非設置会社では1名、定款で定めた取締役の員数も本件の場合は同様であるので、本件の場合はこれにも該当せず、いわゆる「補欠」には該当しないことになる。

3. ところが、1人監査役が辞任し、また数名いる監査役の全員が辞任した場合は、前記補欠に該当することになり、旧商法時代の取扱い(解釈)が変更され、補欠役員として取り扱われることになった(法務省Q&A5?53、5?59)。

4. しかし、実務上最も多いと思われる設例の場合は会社法329条2項に定める「補欠」には該当しないことになる。それでよいのであろうか。

5. ところで、旧商法時代は、退任を証する書面として、たとえば後任者選任の株主総会議事録に「本定時総会の終結をもって、取締役および監査役全員が任期満了退任することになるので、……」という趣旨の記述があれば、本件設例のような場合も補欠役員として取り扱っていたように思われるが、いかがであろうか。
 なお、取締役については、後任者選任の株主総会決議において、後任者の任期を前任者の残りの任期とする旨を併せて決議すれば会社法のもとにおいても問題はない(会社法332条1項ただし書)。
 しかし、監査役については、このような取扱いは困難である(会社法336条3項参照)。

6. しかし、設例の場合も、監査役の任期を前任者の残り任期とする必要性はあり、むしろそれが実務のニーズと思われる。補欠役員の任期を前任者の残り任期とする取扱いは「任期調整」のためであるので、会社法336条3項の規定は、設例の場合にも該当すると解してよいのではなかろうか。つまり、会社法336条3項の補欠は、同法329条2項の補欠より若干広く解するというわけである。